日系一世の奮闘を讃えて
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アメリカへ - 堂前信夫 日系人弁論大会原稿
アメリカへ! アメリカへ行かなければ一個の人間でない、とまで思はれるほど、郷里の青年はアメリカへ、アメリカへと旅立って行きます。 同級生は行く、友達は去る、後に残されし自分こそ人生の敗残者か、或は落伍者の様に思ひ、言ひ知れぬ悲哀と寂寞を感じたのであります。 帰朝者は美服をまとひ、不自由なく金銭を消費し、英語マジリの言葉を使用したりして大勢連れだって闊歩する。その様は、如何に夢見る若者の心を誘惑したでありませう。 汚い仕事着を身に着けた、己れの醜き姿をながめては、自己の職務の尊さをも打ち忘れ、美の国、黄金の国、アメリカを心に描き、一途に彼の国アメリカに憧れを持って居たのであります。 顧みれば五年の昔、一九三〇年一月末日の午後八時頃でした。欣喜雀躍、身は躍り胸を高鳴らせ乍ら、異国の地、あこがれの黄金の国に一歩を踏み入れたのは。しかし、如何なる難関が前途に待臥して居るとも知らず。・・・・・・・・・・・・・・・・
注 1930年父親の呼び寄せにより和歌山県より渡米