Japanese American Issei Pioneer Museum
日系一世の奮闘を讃えて

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物語 - 一世関係
06 - 利ちゃんを送る - 坊や

利ちゃんを送る- 匿名 坊や

タコマ

利ちゃんが日本に行くとさあ。僕驚いちゃった。本当に行くのかしらん。きっとだよ。お母様が言ったんだから。僕のお母様は、決してうそなんか言はないんだから。

日本てどんなとこ。僕はまだベビーの時に此方へ来たのだから、日本のことは少しもしらないけれど、去年日本から帰って来た叔父様が言ってゐたよ。

日本といふところは、大きな海の中に一つぽっくり舟のやうに浮いてゐて、その上に舟が沈むほど沢山の人が乗ってゐるのだと。だから少し波がくると、すぐ舟がぐらついて大勢の人が海の中へ落ちて死ぬるのだって。

舟の中には食うものや着るものが少ないので、アメリカ帰り様アメリカ帰り様って皆が寄ってたかって、ハットも洋服も靴もみな奪ってしまふんだって。

利ちゃんよ、気をつけよ。これからだんだん寒くなるのに、洋服や靴を取られちゃ風邪をひくからね。風邪は万病の元だってお父さまがいってゐたよ。

余り皆がいじめるやうだったら、直ぐまたアメリカへ帰っておいで。アメリカに居れば洋服や靴を取られる心配はなく、またサンデーにはロースチキンのやうなおいしいものも食べられるんだからね。

利ちゃんが再び渡米するやうになったなら、僕はきっと必定お迎へに出るよ。その時、利ちゃんはまさか裸で居らぬだろうね。

(大北日報 掲載 シアトル 1920年代)



1920年代に多くの二世の小学校就学年齢になると、日本での教育を受ける為に日本に送られた。この文章の「利ちゃん」はその一例である。日本では祖父母や親戚の元から通学することになる。

すべてのケースが順調に行ったとは云えず、問題も起こったに違いない。子供を日本に送っている同胞の多い中での寄稿なので匿名の偽名投稿となったのだろう。

一世パイオニア資料館 - isseipioneermuseum.com - 2010